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最高裁判所第三小法廷 昭和44年(オ)342号 判決

上告人

町山志げ

外三名

代理人

竹原祗董

外二名

被上告人

久保田寅之助

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人磯崎良誉、同磯崎千寿の上告理由第一点および第二点について。

本件において、被上告人は、昭和一九年二月一日本件土地を普通建物所有の目的で期間の定めなく賃借したものであると主張し、本件土地に対する賃借権の確認を求めたのに対し、上告らは、右賃貸借の期間は昭和一九年二月一日から二〇年と定められたのであるから、賃貸借は昭和三九年二月一日終了したものであり、被上告人は本件土地に対する賃借権を有しないと抗弁したものである。ところで、いわゆる普通建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約において期間を一〇年と定めた場合には、右存続期間の約定は、借地法一一条により、その定めがなかつたものとみなされ、右賃貸借の存続期間は、同二条一項本文により、契約の時から三〇年と解すべきであることは、当裁判所の判例とするところである(最高裁判所昭和四一年(オ)第一三五六号、昭和四四年一一月二六日大法廷判決、裁判所時報五三四号一〇頁参照。)そして、被上告人が昭和一九年二月一日本件土地を普通建物所有の目的で期間を一〇年と定めて賃借したものであることは原審の適法に確定した事実であるから、被上告人の本件土地に対する賃借権の存続期間は、右昭和一九年二月一日から三〇年と解すべきである。そして、本件土地を昭和一九年二月一日普通建物所有の目的で期間の定めなく賃借したものであるから本件土地に対し被上告人が賃借権を有することの確認を求めるという被上告人の主張のなかには、本件土地に対する町山械造と被上告人との間の賃貸借契約における期間の約定が借地法一一条によりなされなかつたものとみなされ、同法二条によりその期間が三〇年とされる場合においても、被上告人が現に本件土地の賃借権を有するとの主張をも含むものと本件記録から認められる以上、たとえ明示的には後者の主張がなくても、裁判所が該主張の事実を認定しても、当事者の主張しない事実を認定したものとはいえない。したがつて、以上に説示したところにより、上告人らの期間満了の抗弁は理由がなく、被上告人が現に本件土地に対し賃借権を有することは明らかである。原判決は、右に述べたところと理由を異にするが、その結論において正当である。論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、上告代理人磯崎良誉、同磯崎千寿の上告理由第一点および第二点に対する期間を一〇年と定めた普通建物所有を目的とする土地賃貸借契約の存続期間についての裁判官田中二郎の反対意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

裁判官田中二郎の反対意見は、次のとおりである。

本件土地の賃貸借契約における賃借権の存続期間は契約の時である昭和一九年二月一日から二〇年と解すべきであると考える。その理由は、最高裁判所昭和四一年(オ)第一三五六号、昭和四四年一一月二六日大法廷判決の反対意見(裁判所時報五三四号一一頁参照)のとおりであるから、ここにそれを引用する。したがつて、被上告人の本件土地に対する賃借権は、昭和一九年二月一日から二〇年を経過した時において消滅したものというべきである。そして、被上告人の右賃借権消滅後の本件土地の使用につき上告人らが遅滞なく異議を述べないときは、被上告人の右賃借権は法定更新されることとなるが、上告人らが借地法六条により遅滞なく異議を述べたときは、右賃借権は法定更新されないこととなる。そうとすれば原審は、すべからくこの点について釈明し、審理を尽くすべきであつたのである。しかるに、この点について、単に被上告人は本件土地に対する期間の定めのない賃借権を有するとした原判決には、借地法二条の規定の解釈適用を誤り、釈明権不行使、審理不尽、理由不備の違法があり、破棄を免れないものと考える。(関根小郷 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)

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